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マラウィ・プロジェクト
~2022年8月より展開中~ 

2022年8月、マラウィ保健省と綿密な打ち合わせをした後、9月にマラウィを訪問しました。同月7日に保健省審査会の審査を受け、以下のマラウイプロジェクトが承認されました。

もう一つ、ミャンマーのグループによる携帯電話を用いた医療情報・医療情報コンサルタントシステムも承認されました。

背景と目的

マラウィは、妊産婦死亡率が大変に高い状況にあります。これを低下すべく、コンゴ民主共和国で開発・導入されている遠隔妊婦腹部エコー検診システム(SPAQ)の導入を計画しています。すでに本プロジェクトは、2022年9月7日にマラウィ保健省の審議会で承認されると同時に活動開始請求も受けており、マラウィ保健省、マラウィ産科医・婦人科医師会の全面的な協力と支援も得られています。我々は、2023年10月にマラウィ保健省を通してマラウィ政府とMOUを締結いたしました。本プロジェクトは、遠隔妊産婦腹部エコーシステムをマラウィ国内で、独立して自立的に運営できる人材を育成することを目的としています。

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マラウィ保健省審議会(2022年9月7日)での討論と承認

人材育成としてのマラウィ・プロジェクト

講習・指導を受けた助産師が、各診療所において腹部エコーを行います。問題があった場合は、携帯電話でエコーの画面を共有しながら、センター病院の産科医に医療相談ができます。このシステムの利点は、各診療所の助産師の助けを借りることで、一人の産科医が広域の健診をカバーできることにあります。

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プローブ(探査機)はスマートフォンに接続して使用

人口1,000人あたりの医師数を見た際、マラウィは0.019人[1]、日本は2.4人[2]と、126倍もの開きがあります。医師数が非常に少ないマラウィでは、SPAQは大変に有効なシステムです。またプローブ(探査器) は携帯電話に接続して使用するため、大型の機械・設備を必要としません。簡単に携行でき、無医村でのエコー健診も可能になります。

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SPAQを開発したのは、コンゴの革新的企業 SOIKです。 コンゴ・クワンゴ州の7つの医療施設で、2021年12月から2022年3月までの3ヶ月間に1,014名の妊婦にSPAQを用いたデジタル産前健診を行ったところ、妊婦の満足度は99%であり、産前健診数の増加率は74%、医療施設の収入増加率は42%でした。また子宮外妊娠、子癇前症など79件の異常が見つかり、28名の妊婦が救命されました。この結果、SOIKはコンゴ民主共和国保健省と官民連携パートナーシップ協定を締結し、年間360万人の妊婦へのSPAQ健診を展開することを計画しています。

本プロジェクトは、マラウィへのSPAQの本格導入のパイロットスタディとも位置付けされます。まず、都市部周辺(首都リロングウェ市を予定。リロングウェ市保健局の協力も得られています)の一次医療施設2カ所、二次医療施設1カ所を選定します。助産婦の講習会は8日間。この研修会には、3つの医療施設から各2名・計6名の助産師が参加します。

遠隔妊婦腹部エコー検診システム(SPAQ)

(1)妊産婦死亡率が高い。(日本の70倍、国連 SDGs 目標値の5倍)

日本の妊産婦死亡率は10万人あたり5人[3]であるのに対し、マラウィでは349人/10万人[3]と、70倍も高くなっています。Sustainable Development Goals(SDGs)では70人/10万人以下が目標とされており[4]、ここでも5倍の高さとなっています。

妊婦の腹部エコー健診は、子宮外妊娠などを早期に発見でき、妊産婦死亡率を低下させることが期待できます。ちなみに乳児死亡率も1,000人あたり29人であり、日本の1.89人に比べ16.1倍も高い状況です[5]。

実際にSPAQシステムで発見されたコンゴ民主共和国農村部での子宮外妊娠症例。州立病院へ緊急紹介されました。エコー検診を受けていなければ、妊婦は大量出血で死亡したものと​思われます。

(2)医療施設へのコンタクトないしは、医療受診が困難

9月・10月に ザンビア、コンゴ民主共和国の農村部を回ってきたところ、ザンビアでは、医師不在の診療所にさえ徒歩で3時間を要し、その診療所から医師のいる州立病院への移動には、早朝に1便しかない公共バスで半日かかるというケースがありました。コンゴ民主共和国では、その地域の村の診療所(保健ポスト:医師不在)で受診するだけでも、妊婦は数時間歩いて来なければならないのが一般的でした。3時間程度は普通で、12時間の徒歩を必要とする診療所もありました。医療施設へのコンタクトの難しさは、道路の不整備もあり、私たちの想像を超えるものがあります。

SPAQシステムを使えば、看護師・助産師がエコーキットを鞄に入れて、医師のいない診療所を回ることができます。週に1回、助産師・看護士が村の医師のいない診療所を訪れ、その地域の妊産婦達の腹部エコーをするだけでも、妊婦の移動の労力を大幅に軽減できます。

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コンゴ民主共和国:保健ポスト

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保健ポスト(医師不在)

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保健ポスト訪問時の妊婦腹部エコー検診

​医師のいる診療所から車で数時間。雨期には泥土となり道路状態は劣悪化する。

マラウィ政府が発行しているHealth Sector Strategic Plan Ⅱ 2017-2022によると、2016年には、医療施設から半径8km以内(すなわち徒歩で2時間以内)に国民の90%が居住している一方、農村部、到達地域困難部では女性の56% が遠距離であることが原因で、疾病時での医療受診が難しいとあります[6]。また機能する救急車があるのは、全ての医療施設の24%に過ぎません。貧弱な車両整備は、道路状況の良くない遠隔地では特に劣悪です[7]。

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農村部の救急車(コンゴ民主共和国)

(3)母親の妊娠に関する知識の欠如

マラウィの成人識字率(15歳以上)は62.14%[8]であり、前述のように医師数は日本の1/126であることから、母親の妊娠に対する知識は十分ではありません。産科医師がいれば、血圧、貧血、浮腫などから判断して妊婦の死亡を防ぐことができますが、一般の母親にはその医療知識がありません。このシステムの講習会時に、各地の助産師・ボランティアにその医療知識医を供給し、早期検査を受けさせれば、妊産婦の死亡を防ぐことができます。

SPAQシステムを導入する3つの理由

マラウィ保健省とマラウィ産科医・婦人科医師会の協力

本プロジェクトは、将来的なマラウィ政府への導入を目的としたパイロットスタディであることを説明のうえ、すでにマラウィ保健省、首都リロングウェ保健局、マラウィ産科医・婦人科医師会の全面協力を得ています。

1

指定医療機関の選定(1つの都市の周辺部で3つの医療施設の選定)に関しても、すでに首都リロングウェ市の保健局の協力が得られています。

2

医療活動(エコー検査実施と診断)はマラウィの産科医・助産師・看護師のチームが実施し、私たちはシステム運用のための人材育成に注力します。

【参考文献/参考サイト】

1. World Health Organization 2010
2. Organisation for Economic Co-operation and Development Health Statistics 2019  
3. World Health Organization 2017
4. United Nations Summit 2015
5. WorldBank.org 2017 
6. National Statistical Office (NSO) [Malawi] and ICF.  
 Malawi Demographic and Health Survey 2015-2016. Zomba, Malawi 2017
7. Service Provision Assessment - MoH 2014e
8. knoema.com 2015

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